メキシコの片田舎にある孤児院に拾われたナッチョ(ジャック・ブラック)は、今やすっかり大人になり料理番として恵まれない子供達の面倒を見る側にまわっていた。いつか孤児達を幸せにしたいと思う彼の憧れのヒーローは、TVで活躍するメキシカン覆面レスラー。また新入りの美人シスター(アナ・デ・ラ・レゲラ)も気になってしかたがない。ある夜、買出し途中のナッチョ・チップを町の乞食(エクトル・ヒメネス)に略奪された彼は、飢えた子供達を食べさせるためにレスリングの試合に飛び入り参加する事を思いつく。ボロボロの負け試合だったが一方的なヤラレ方が興行主に気に入られ、彼はレギュラーの座をしとめるのだが…


MTVの大掛かりなプッシュもあって米国ではそこそこ売れた「バス男 」(原題=Napoleon Dynamite)のジャレッド・ヘス監督が、再び脚本・演出を担当した、デブでダメな覆面レスラー物語。孤児院の子供のために戦う覆面レスラーって、タイガー・マスクかよ、と突っ込みたくもなりますが、本作はお馬鹿+脱力系のB級インディ路線(製作・配給はパラマウントで制作費25億とファイナンシャル的にはバリバリのスタジオ作品ですけど)。


ジャレッド監督の狙いは明白で、前作に引き続き「一巡して裏返った負け組みのカッコ良さ、クールさ」を追求しているのだと思います。田舎物のメキシカンというステレオタイプをあえてグロテスクなまでに誇張する事で、偏見の馬鹿馬鹿しさを笑い飛ばす、というコンセプトにはなるほど納得するものの、あえてはっきり書けば個人的にはそれほど楽しめた気はしなかったのでした。


おそらくこの手の反則笑いにはファレリー兄弟という偉大な先駆者がいるせいでもあり(この作品にもシャレにならない限界まで攻めるアグレッシブさがあれば!)、またベタなシーンをとことんまでベタにこなせない演出や撮影の力量の足りなさのせいでもあるのでしょう。どうせ作るなら、プロレスの試合はオリバー・ストーン並みに大仰に迫力を出し、孤児院の貧乏さや金持ち興行主の華麗な生活の差異はリドリー・スコットのように緻密で端麗に描いたら、なんて夢想してしまったのです。話はヘラヘラ、カメラもヘロヘロ、演出もヘナヘナ、では、のっぺりし過ぎなんじゃないかなぁ、と。


相変わらず画面から伝わるジャック・ブラックの暖かい愛嬌さは愛くるしく、過去出演作の記憶は無いもものアナ・デ・ラ・レゲラ嬢は清純でケナゲだし、声に出して笑える箇所もそれなり多くて、不満だらけの映画、ではけっしてなかったのですが…


日本でも勝ち組・負け組みという言葉が一般化してからしばらく経ちますが、今後はジャンプのヒーロー・トーナメント物のように勝ち続けるお話ばかりではなく、いかにうまく負けや失敗を物語りに紡ぐか、に直面せざるを得なくなると思います。そんなこんなを考えたとき、アメリカン・ドリームとやらに浮かれる国民性のアメリカ映画よりは、停滞して久しいイギリス産の映画の方がやっぱり負け方を描くのは卓越してるよなぁ、などと思う今日この頃なのでした。


IMDb: Nacho Libre
Official Site: Paramount Pictures


NachoLibre