32年間にわたり、ミネソタ州セント・ポールのフィッツジェラルド劇場から生中継で毎週末放送されていた長寿ラジオ番組「A Prairie Home Companion」は、その終わりを迎えようとしていた。ラジオ局はテキサス系の大企業に買収され、そのオーナー(トミー・リー・ジョーンズ)は時代遅れの儲けが出ない番組に興味が見出せなかったのだ。
今日はその最終回を迎える日。警備係(ケヴィン・クライン)は、打ち切りを決めたお偉方が見学に来るので緊張気味。多数のミュージシャンが演奏の準備を進める舞台の裏では、風変わりな芸風のカーボーイ・デュオコンビ(ウディ・ハレルソンやジョン・C・ライリー)がたわいのない会話を交わし、番組の華でロートル姉妹カントリー・デュオ(メリル・ストリープ、リリー・トムリン)は不機嫌な娘(リンジー・ローハン)を気遣う。

やがていつものように番組本番が始まり、何事もなかったかのように番組は終了に向けて進んでいくのだが…


60年ものキャリアで35本の演出作品数を誇る81歳の巨匠ロバート・アルトマンの最新作は、実在するラジオ番組を題材にその最終回をフィクションで構成したコメディ・ドラマ。原案と脚本は、同ラジオ番組の司会者で、この作品に本人役で出演しているギャリソン・キーラ。二人はシカゴで「バレエ・カンパニー 」の撮影中に会い、この企画をスタートさせたと言う。

エンディング・クレジットにポール・トーマス・アンダーソン監督の名前が筆頭に挙がっていましたが、純インディ個人ファイナンスによる製作にあたり「もしも高齢監督に何かがあった時の保険」としてスタンドインで常に撮影に追行していたという。「えーそんな失礼な」と思ったのですが、実は2001年の「ゴスフォード・パーク 」でもスティーヴン・フリアーズ監督がスタンドインを務めていたらしい。


製作方針の衝突を経験した後、監督はハリウッドのメジャー・スタジオ・システムとの距離を置くようになり、過去19年間はインディ・ファイナンスの製作を続けてきたという監督。本作品も配給は制作費は約10億円と伝えられています(劇場を使った撮影はたった22日間、楽曲もスタジオ別録ではなくその場録りだったそう)。今回、配給を担当した Picturehouse も HBO とニューラインの合弁ベンチャーで、最近良く見る"いわゆる"インディ風の小規模予算映画ではなく、隅から隅まできちんとインディ映画なんだそう。


7人のオスカー・ノミネート経験者を含む強力なキャスティング。前述の6人(もちろんリンジーは違います)に加え、役名「危険な女」で出演するのがヴァージニア・マドセン。企画段階では、ケヴィン・クラインがジョージ・クルーニー、マドセンがミッシェル・ファイファーだったそうですが、出来上がった作品を観ると最終的にこのキャスティングで正解だったかな、と思います。

この他、実際に撮影時には妊娠していたという妊娠した舞台進行係を演じたマーヤ・ルドルフ、サンドイッチを配りに歩くおばさん役でメアリールイーズ・バークなど。


さて本編の感想ですが、舞台の表と裏をカメラがゆっくりと動き回りつつ、多数のキャラクターを同時進行で動かして行くアルトマン監督のいつもの手法の巧みさはやっぱり健在。かなりアドリブを混ぜたという技法も手伝ってかごくごく自然にシーンが構成され、作為や努力の不自然さを微塵に感じさせない画面の澄み具合をたっぷりと堪能。


想像よりずっと良かったのは、自分の母親に習ったというミッド・ウェスト訛りのメリル・ストリープと、「ムッソリーニとお茶を 」でも見せたおばさん全快モードのリリー・トムリンの二人のデュオ曲。変に上手すぎないリアリティがあって、暖かく真っ直ぐな歌が心に沁みました。


映画の中心テーマとなっている「死」は、ラジオ番組の最終回というモチーフにも被っているわけですが、ストリープやトムリンの母を想う歌の歌詞や、不機嫌でウツなアマチュア詩人(ローハン)の書くポエムやら、手や形を変えて物語のあちこちにひっそりと顔を出します。
一方で、ともすれば感傷的で個人的な狭い領域に入りがちな重い主題を持ちながら、ほがらかに明るいギャグが散りばめられているのもなかなかユニーク。ハレルソンとライリーのカーボーイ・コンビの舞台芸なんてまるで歌謡漫談だし、その歌詞も猥歌並み。


そんな主題を、切れ目のないラジオ番組進行の下に隠し、あくまでスムーズに場面を展開させていくのがアルトマン流なのか。場面場面が淀みなく流れる映画で、これはイイと思うシーンは多々ありましたが、中でもトミー・リー・ジョーンズが車に乗って帰る瞬間の、静かな夜景に覆いかぶさる空気の匂いに、鳥肌が立つほどの凄さを感じました。


万人向けの間口の広さには欠けるような気もしますが、ここ数年のアルトマン作品が好きな人ならきっと気に入るシーンが多いと思います。監督は次回作の製作に向けて準備を始めているらしいですが、「これで最後かもしれない」ファクター抜きでもお勧めしたい作品です。


IMDb: A Prairie Home Companion
Official Site: Picturehouse

A Prairie Home Companion