転校を繰り返し学校へ馴染めない独り者のショーン(ルーカス・ブラック)は、またまた学校で問題を起こし少年院に送られそうになる。母親が機転を利かせ東京に住む在日米軍人のおじさんの元で暮らすことでなんとか務所送りだけは逃れたものの、まるで勝手が違う外国生活に戸惑うばかり。
そんな所にひょんなきっかけでたまたま連れて行かれたのが、地下駐車場で開かれている改造車パーティー。言葉が通じるアメリカ人のニーラ(ナタリー・ケリー)と会話が弾んだが、彼女は地域をまとめるチンピラのボスDK(ブライアン・ティー)の女、DKはショーンを黙らすためにカーレースで勝負をけしかける。まったく面識のないショーンにポンと車を貸したのは、DKの親友で羽振りのよいハン(サン・カン)。DKの名前がドリフト・キングから取られている事を知った時にはすでに時遅く、DKの操る改造Z33にショーンはコテンパンに負ける。ベコベコに凹んだ愛車を気に留めるでもなく、ハンはショーンを連れ出し、やがて二人は信頼と友情を
築いて行くのだが…


最近、ジェームス・フランコ主演「Annapolis 」(←愛と青春…のマルぱくりみたいな映画でした)を演出したばかりのジャスティン・リン監督による「ワイルド・スピード 」(原題:The Fast and the Furious)フランチャイズの最新作。舞台はなんと夜の東京。実は密かにロブ・コーエン監督の「ワイルド・スピード」第1作は大好きなもんで、この作品、期待度が高かったのです。予告編で日本人のお姉ちゃんの「セット~」と言う台詞は、間違いなく英語の「set」ではなくカタカナの「セット」だし、ひょっとしてひょっとしたら本格的で硬派なストリート・レース映画になるかも、なんて事も思っていたのですが…


しかし、映画が始まってすぐにそれは大きな勘違いだった事に気づきました。「ラスト侍」や「SAYURI」どころではない、「オレ、ハリウッド映画。考証なんて知らんもんね」的なハチャメチャな日本が大画面に写り続けます。主人公が転校する高校の校門の上にはでっかく「東京都立田舎高校」と出てるし、カフェテリア風の学食には懐石料理や和菓子が並ぶ。靴から上履きに履き替えるのは内廊下の教室扉のすぐ前だし、もう次々に出て来る㌧デモぶりに腹がヨジれて痛くなるほど笑いましたよ。あまりのスゴさにこれは知っててワザとやってるんだろうか、と勘繰りたくもなります。夜の都内を200km/h近くで爆走しててパトカーとすれ違っても「順法改造しかできなくて、どうせ追いつけっこないから、パトはわざわざ追いかけて来ないのよ」なんて説明的な台詞が入るし(本気にする外国人が居たらどーすんのよ?)。


なんですが、金返せ、と後悔したかというと、実は正反対で大いに楽しんだのでした。ダメ映画の突っ込み所を探しながらアラ探しするのは飲み会で会社の同僚と上司の悪口を言い合うような楽しさがありますし、画面を縦横無尽に走り抜ける日本車の勇姿に心は躍ります。無骨なランエボの不器用なドリフトにも、ひたすらセクシーに滑らかな VeilSide ロゴ付き FD にも大興奮。

自分の愛車をボコボコにされたのに気前良く別のスポーツカーを主人公に渡す際に「ヒュンダイに載せるわけにはイカンだろ」なんて台詞もあったりして、ハチャメチャな日本の風俗文化の描写と、日本車へのピュアな愛が同居するこのヘンテコリンな映画に、日本の愛国少年達はどう反応していいのか困るんじゃないかな? なんて勝手な想像したりもしました。


職場にいるアメリカ人の車基地外達から伝え聞く所によると、実際日本車はアメリカ人の車好きの間で非常に高く評価されているそう。日本人から見ると不思議に思うのが、とにかく日本オリジナルが「Cool」という感覚。「これは「Z」(ズィー)ではなく、輸入された本物の右ハンのフェアレディ・ゼットだ」と自慢する親父とか、「フェイクだけど日本とまったく同じナンバープレートを付けた。カッコいいだろ」だとか、今一つ何がどうクールなんだかわかりません(日本車のCMでなぜかヨーロッパのナンバー・プレートを付けてるのと同じ感覚なんでしょうか?)

実際、つい先日、行きつけのハンバーガー屋で働く顔なじみのウェイトレスのお姉ちゃんが、米国では発売されていない"初代"GTRを指す「R32」を口にしているのでビックリしましたもん。



RONIN 」のソレには遠くには及ばないまでも、密度の濃いストリート・カーレース・シーンがボリュームたっぷり。カーアクションは本物の車とスタントで撮影、TOYOタイヤ寄贈の約2000本のタイヤが消費され、100台以上の車をツブしたそう。CGI の背景合成もなかなか見事で(クレジットされた多数のCG工房の中にILMの名前も)、夜の東京を疾走する違法改造車達はゾクゾク(しゃれじゃないっすよ)するほと美しい。人混みの渋谷のスクランブル交差点に逆ハンを切りながらしながら突入する3台のドリフトを見ながら、「グランツーリスモ」のリプレイでこれくらいの絵が見れるようになる日はいつくるんだろうか、なんてついつい夢想してしまいました。


やっぱり根底に流れるアメ車崇拝とか(RB26をマスタングに載せるのが最強ってか?)、浮きまくっていた小錦とか、不満な点はもちろん山ほどあるんですが、(米 EW 誌上での評価はD+、IMDb の評価は 3.5点/10点満点--6/16現在)ですもん)、自分はいろんな意味で非常に楽しんだ作品になりました。最後にちょっと嬉しい(?)カメオ出演もあったりして、更に大満足。自分がいかに馬鹿映画が好きなのかを再認識しました。ひょっとすると馬鹿映画量産帝国のユニバーサルを応援するためにも DVD 買っちゃうカモ?

なんでもみうらじゅん的にうがって、ひねって映画を観るのは、ちょっとイヤラしい感じもしますが、たまには悪友と連れ立ってこういう馬鹿映画を悪口を言いながら観るのも楽しいんではないでしょうか?

今年の秋口公開で邦題は「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」となるようです。



IMDb: The Fast and the Furious: Tokyo Drift
Official Site: Universal


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Tokyo Drift