アシュレイ(リンジー・ローハン)は生まれ付いての幸運の持ち主。アパートから一歩外に出れば小雨が止み、通りで手を挙げれば混雑した YC の大通りでもたちまち空車のタクシーが捕まる。今日もエレベータ事故(!)で会議に遅れた上司(ミッシー・パイル)や同僚達の代わりに、超有力ミュージック・レーベルの社長(フェイゾン・ラヴ)へ代理でプレゼンを披露し大成功。彼女はゴボウ抜きの大出世を成し遂げる。


一方ジェイク(クリス・パイン)は生まれ付いての悪運の持ち主。やる事なす事がすべて裏目に出る彼は、緊急医療セットをバックパックに入れ常に持ち歩くほど、もらい事故も多い。今日は、自分がマネージャ権広報を努めるギターバンド(McFly)をなんとか売り出そうと、セントラル・パークを散歩中の超有力ミュージック・レーベルのレーベル社長へ近づきデモCDを手渡そうするのだが、誤解が誤解を呼び警官に捕まる始末。


そんな正反対の星の下に生まれた二人だったが、ある日アシュレイが企画したプロモーション仮装パーティで、お互い相手の事をよく知らないままキスを交わしたとたん、二人のツキが入れ替わってしまう。急に何をやってもうまく行かなくなったアシュレイは、占い師の助言により、キスした相手を突き止め、キスを仕返して運を取り戻そうと画策するのだが…




歌も映画も大ヒットし、芸能ゴシップの扱いはスーパー・スター級のリンジー・ローハンが、20歳を目前に初めて"大人"の役に挑戦することでも話題になった、ファンタジー・ロマンス・コメディ。演出は「デンジャラス・ビューティー 」や「10日間で男を上手にフル方法 」で知られるドナルド・ペトリ監督。


リンジーと言えば、今でこそ歌手・芸能人としても有名ですが、映画人としてのキャリアも長く、20歳にしてすでに立派すぎる実績も残しています。劇場での興行収入こそ66億強とやや低調に終わったものの、ディズニーの期待にしっかり答えた実質メジャー・デビューの「ファミリー・ゲーム/双子の天使 」、制作費26億に対して110億円強の興行成績を残した大成功作「フォーチュン・クッキー 」、予算15億とインディ・クラスながら斬新なスタイルの学園ドラマ・コメディで29億を稼いだ「彼女は夢見るドラマ・クイーン 」、続いて予算17億で86億を稼いで安定した集客力を見せかつ評論家からも絶賛された「ミーン・ガールズ 」のヒットが続き、更にブロック・バスターを狙った大衆エンターテイメント作「ハービー/機械じかけのキューピッド 」でも予算50億を越す66億の興行成績を記録。


ディズニーの天才子役から、商業娯楽作品、インディまで幅広い出演経歴を重ねながらも、歌を歌えばまたまた大ヒットした、ここまで順風満帆のリンジーのキャリアを振り返りつつ、その彼女の新作となる本作もそこそこ期待して見に行ったのですが、結果から話すと面白く感じた部分もあり、やや不満に感じる部分もあり、という印象。


アシュレイやジェイクがツイてる時の、何でもトントン拍子に運ぶ軽やかな上昇感は心地いいし、ツイてない時の畳み掛けるようなドタバタ加減も笑いを誘われます。いろんなアイデアが詰め込まれた設定も、個性的な脇役のキャスティング(東京生まれのサミーラ・アームストロングに注目)も、評価できる部分は多かったと思います。


そんな中で圧倒的に不満に感じたのは脚本の整理不足。リンジー演じるアシュレイが、コネも学歴も無い中から運だけでキャリアを掴んで行くシークエンスが前半にあって、これは対象オーディエンス(女子中高生)を考えると当然組み込みたいエピソードです。でも本来ならそれだけでも結構なボリュームになるわけで、これに加えて、ツキが無い相手の男の不幸を描写し、続いてツキが入れ替わった後のドタバタ、その後何が起こったかを理解しそれを解決しようとする下り、を娯楽作品の尺である2時間弱に詰め込むのは、どんなに腕の立つ演出家でも相当大変そうです。


聞いた話によれば、元々「Lady Luck」というタイトルだったオリジナルの脚本では、主人公は既に人生で成功を掴んだ大人として書かれていたそうです。想像するに、当初の設定よりずっと若いリンジー・ローハンを主役にキャスティングした結果、じゃあ若い女性がキャリアを掴む部分も入れようか、となって、またどうせ貧乏マネージャがバンドを売り出す設定もあるなら、本当のバンドのデビューも映画に絡めてみようか、となり、… と、そんな具合に大人の事情でアレコレ詰め込みすぎたんではないかと。良質のコンセプトに、力のある脚本家と演出家、それに集客力のあるキャスティングと十分な制作費と広告宣伝費、と正しい要素要素を積み重ねていっても、インテグレーションで失敗する事もある、という映画ビジネスの微妙さを改めて考えせられたりしました。


興味を引くたくさんのエレメントがぎっしり入った映画で、その1つ1つは面白いものの、1本の作品として振り返ると、かなり荒削りな所も多かったかも。そんなこんなを反映してか、予算45億の中規模作品ながら、公開5週目にしてベスト10の圏外へランク落ち、累計興行収入が16億ちょっと、は、惨事に近い低成績でしょう。


スラップスティックな笑いもあり、ロマンスもあり、「セックス・アンド・シティ」のリファレンスなど"進んだ"センスも盛り込まれており、欠点も目立つものの能動的に楽しむ分には面白さも多い作品だったと思います。


IMDb: Just My Luck
Official Site: 20th Century Fox


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