元副大統領で、2000年の大統領選に敗れた民主党のアル・ゴア上院議員は、群集に向かってゆっくりと力強く話し始める「アル・ゴアです。私はかつての次期アメリカ合衆国大統領でした」群集がわっと沸き会場が笑いに満ちるとすかさず「自分としては笑わせる所ではないと思ったのだけど…」とトボケ、さらに大きな笑いを呼ぶ。


TV監督(ネーヴ・キャンベルが出演した「サンフランシスコの空の下 」=POV、他)でキャリアを積んだデイヴィス・グッゲンハイム監督(あるいはエリザベス・シューの旦那としても有名)が構成したドキュメンタリー映画。

アル・ゴア議員の行う地球温暖化のプレゼンテーションをメインに紹介しつつ、その周辺も合わせて紹介し、取り込まれている作り。

映画の中でも内容が紹介されるプレゼンテーションは実にうまく構成されていて、例えば30年前に比べ大幅に積雪が減ったキリマンジャロの頂を移したり、CO2濃度のグラフがここ10年間で振り切れるほど上昇している様を、視覚的に様々な工夫を凝らして観客に提示していきます。


それにしてもアメリカの政治家は話が巧い。自分の勤務する会社でも、上級副社長クラスまで出世する人間は、発言にいちいち説得力があるし、部下の意見もちゃんと聞く(というか聞いて理解したような気にさせる)話術を持っている人が多いように思えます。アル・ゴア議員も、発言のペースや声のトーンを自在に操り、時に慎重に、時に軽やかに、身振り手振りも加えて、見事なプレゼンテーションさばきを見せてくれます。大統領選の頃には、鉄仮面のようだと揶揄された感情の起伏の少なさが信じられない程で、まさにザ・カリスマ、って感じ。


話術以外でもプレゼンの技巧は、サスガ文句なしというレベルで、例えばマット・グローニング(「ザ・シンプソンズ」の原作者)のキャラでリサの声(イヤードリー・スミス)をつけたショート・アニメに大笑いさせられました。また「デイ・アフター・トゥモロー 」の劇中で説明されていたけれど自分にはさっぱり???だった「なぜ地球温暖化→氷が溶ける→塩分濃度の変化→氷河期を呼ぶ(呼んだ)のか」という説明も非常に丁寧に説明されて、なるほど、と納得したのでした。


一方でデイヴィス・グッゲンハイム監督が加えた"演出"部分には、ちと疑問が残る箇所も。1989年に当時6歳の息子が遭遇した交通事故のエピソードや、親戚のお姉さんが肺癌で無くなった件などは、彼の使命感を説明する原理としてうまく作品にフィットしている部分もありますが、その見せ方は泥臭くてあまりスマートではありません。ぶっちゃけて、ゴア氏のプレゼンテーションの内容以外に付け加えられた部分は、この作品をドキュメンタリー映画として構成するには必要不可欠な糊となる部分ですが、そのいちいち全部がぎこちなくて、あんまりうまくありません --たとえば 04 年のオスカー・ノミネート作「The Weather Underground 」などは、ドキュメンタリー映画の完成度を本作と比べると神レベルだと思う--


劇中で紹介されているプレゼンの内容自体にもいくつか疑問に感じる所があって(映画化の編集による端折りの為なのかもしれませんが)、例えば自動車排ガス規制の各国比較が出てきますが、その規制内容が直接温暖化効果のあるガスに対するものなのかどうかはよく分かりませんでした(グラフには優等生として日本が書かれていましたが、日本のってNOxの規制でCO2排出量ではなかったよーな)。多少流れが悪くなっても、正確さを損ねかねないような編集は避けて欲しかったのに、とも思ったりしましたです。


100分とコンパクトにまとめられていて、見て損はない内容だと思います。
公開第1週目は4枚だったスクリーン数も、先の週末で122枚まで笛、累計興行収入は約4億だそう(この数字、良いんだか悪いんだがよく分かりません)。でも、純粋にドキュメンタリー映画としては、水準以上とは言えないよなぁ(=例えば共和党支持者がこの作品を素直に納得するだろうか?)、などと思いながら劇場を後にしたのでした。


IMDb: An Inconvenient Truth
Official Site: Paramount Classics

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