2001年9月11日、アメリカ国内線の4機がハイジャックされ、2機はワールド・トレード・センター、1機はペンタゴンへと突っ込んだ。残る1機、ユナイテッド 93便はターゲットのワシントンDCには届かず、ペンシルベニア州に墜落した…


911(ナイン・イレブン)テロから5年を経て、この事件をモチーフにし商業映画の初めての公開となったのが本作品。脚本と演出を担当したのは、1972年に起きた北アイルランドでの惨事をドキュメンタリー風に撮影した「ブラディ・サンデー 」が絶賛されたポール・グリーングラス監督。
企画はポール監督自らが、事故委員会の発表や、フライトレコーダーの記録、乗客が家族にかけた電話の内容などを調査、検討して立案。持ち込まれたユニバーサルはすぐに15億円の制作費を用意し承諾したと言う。監督は同社が配給だった「ボーン・スプレマシー 」で商業的な成功も収めていて、これ以上の適任者はない、という判断だったのでしょう(そして本作の反響を考えるにおそらくその判断は正しかったように思われます)


出演者の中には知名度の高い役者は含まれておらず、一方で連邦航空局のベン・スライニーのように本人が本人役で出演したり、また客室乗務員を演じた女性の中には現役のユナイテッド航空のスッチーが居たりするんだそうな(確かに、あの微妙なお行儀の悪さはひどくリアルだったかも)。


撮影中は、乗客側とテロ側のキャストを別のホテルに泊め、別のレストランで食事させ、撮影以外の場所で顔を合わせないようにしたそうで、実験舞台演劇のように、個々のキャストが自分の演じる人物のリサーチ結果を元にアドリブも入れてシーンを作りこんで行ったんだとか。

個人的にはドラマの主体であるハイジャックされた機内の人間ドラマより、サブ・プロットである大混乱した航空管制の現場の様子に釘付けになりました。危機管理と言うと日本は諸外国に比べ…とよくけなされますが、アメリカだってメタメタだったんジャン、と思ったりしましたです。


非常にお行儀良く全方位に向けて正しくキチンと作ってある作品で、ポール監督の力量を改めて評価したわけですが、一方で市販ビデオカメラを手持ちで撮影した画面が延々続く機内のシーンは、映像酔いが酷い自分には拷問のようでした。結局米国では、どこからも大きく非難される事もなく、反面で商業的に大きな成功を収めたわけでもなし(現在までの興行収入は30億弱との報道あり)。公開前のピリピリした空気は無事軟着陸したようですが、配給会社のユニバーサル的には最悪の事態ではないが思った程は稼げなかった、という所なんでしょうか。
同じ議論を呼んだ"問題作"のソニー「ダ・ヴィンチ・コード 」の成功と比較すると、なんか頷けない物も。そう言えばパラマウント製のオリバー・ストーン監督、ニック・ケイジ主演の「ワールド・トレード・センター 」も米国8月公開ですが、こちらは果たしてどうなりますか…


NYC の劇場で本作の予告編を流したら大不評で即中止になったニュースを聞いたり、あるいは製作側の依頼で本編上映前の予告編(トレイラー)を一切流さなかったり、また自分が見に行った劇場では出口にティッシュが置いてあったり、と、ちょっと異常にも思える神経質さを目の当たりにして、やっぱり米国人は未だにこの事件をきちんと整理しきっていないのだなぁ、と思ったりもしたのでした(ハイジャックの主格を演じた役者さんが米国のプレミア試写に行こうとしたのに、テロリストと疑われて入国できなかったそうですし)。


ちなみに好奇心からちょっと調べてみたら、現在ユナイテッドの93便というコードは使われていないようです。ま、さすがに乗る方も嫌だろうけど。邦題は「ユナイテッド93」となり8月12日から公開予定だそうです。


IMDb: United 93
Official Site: Universal

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