オーストラリアの都会で暮らすハイディ(アビー・コーニッシュ)は、好奇心にあふれ背伸びしたい16歳。ある日、ふとした気の迷いから母親のボーイフレンドといちゃついている所を母親に目撃され、動揺した彼女は家を飛び出しあてもなく長距離バスに乗りこむ。到着した先は小さなスキー・リゾートだった。金もツテもなく途方に暮れたまま流れに身を任す彼女だったが、やがて気の優しい牧場主の息子ジョー(サム・ワージニトン)と遭遇。彼に想いを寄せるようになるのだが…


2004年にオーストラリアで公開された作品で、地元で開かれるAFIでは19部門にノミネート、17部門受賞と総なめ状態だったらしい。演出と脚本は女流のケイト・ショートランド監督 。構想から完成まで7年間を要したと言う。


ストーリーの中核を成すのは、典型的なカミング-オブ-エジ物語で、例えば2002年に公開されたアグネス・ブルックナー主演の米国インディ「Blue Car 」によく似たテイストだと思う。

多数ある同様の作品から本作の特徴付けているのは、印象的なサントラ--ドイツ語版オフィシャルサイト(http://www.somersault-film.de/ )でも聞くことができます--と、巧みに計算されたシネマトグラフィでしょう。どちらも抑制が効き、物語のトーンを整えるのによく機能していました。
スチル写真を意識したかのような、作り込まれた映像は、空虚でゆったりした時間の流れを作り出していて、見事です。(印象に残ったシーンはいくつもありますが、落ち葉を集める主人公をアオリで撮った物が特に個人的にお気に入り)


主人公を演じたアビー・コーニッシュはすばらしく、主人公の複雑にいり込んだキャラクターの様々な側面を多色的に演じていました。ケイト監督は、精神障害者の施設で出会ったアボリジニの少女をベースに主人公のハイディを造形した、と語っていましたが、神経質で不安げでいながらどこか無鉄砲で愚直な多面性が、アビーの好演と共に良く演出されていたと思います。


が、残りの役者さんは、イマイチだったかなぁ… うまい役者はみなアメリカに行っちゃうから、なんて言われていますが、本当なのかも?そう言えばその昔、「シャイン 」や「ヒマラヤ杉に降る雪 」を撮ったオーストラリア人監督のスコット・ヒックスが、「オージーの役者は本当に下手だから、登場人物に台詞をしゃべらせなくても映画になるように演出する方法を勉強したんだよ」とか言ってましたっけ。


映画祭の中で日本公開された際はカナでそのまま開いた「サマーソルト」が邦題になったようです。このサマーソルト、日本語では「宙返り」くらいの意味(体操の世界でも「moon-sault」=ムーン・サルト、月面宙返り、なんて使いますよね?)。


メインストリームで大ヒットする作品ではないのでしょうが、しっとりハマる人にはハマりそうな、面白い作品でした。


IMDb: Somersault
Official Site: Paramount Home Entertainment (DE)

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