--The man who said "I'd rather be lucky than good" saw deeply into life. People are often afraid to realize how much of an impact luck plays. There are moments in a tennis match where the ball hits the top of the net, and for a split second, remains in mid-air. With a litte luck, the ball goes over, and you win. Or maybe it doesn't, and you lose. (「有能な人より幸運な人になりたい」と言った男は人生を深く理解している。人は、巡り合わせがいかに重要な役目を持っているのかに気づくのを恐れている。テニスの試合で、ボールがネットの縁に当たり、空中に浮く瞬間がある。ほんの少しの運があれば、ボールは向こうに落ち、試合に勝てる。もし運がなければ、試合に負ける) -- 劇中 クリス・ウィルトンの台詞から引用


元テニス・トーナメント・プロのクリス(ジョナサン・リース・マイヤーズ)は、アイルランドからロンドンに出てきたばかりの若者。家賃の高さに驚くものの、すぐに会員制高級テニス・クラブのコーチの職を見つけ都会生活をスタートさせる。そこで意気投合し友達になったのは、ハンサムで気のいい生徒のトム(マシュー・グッド)。礼儀正しくハンサムなスポーツマンのクリスを、トムの妹クロエ(エミリー・モーティマー)はひどく気に入り、やがて二人は恋仲となる。彼女の強い勧めもあって、やがてクリスはテニスから足を洗い、彼女の父親アレック(ブライアン・コックス)の会社で職を得る。勤勉なクリスは金融の世界でも才能を伸ばし始め、その前途は洋々かと思われた。が、そんな矢先、彼はトムの婚約者ノーラ(スカーレット・ヨハンソン)と出会う。将来を約束したクロエの存在がありながら、クリスは売れないアメリカ人女優の卵ノーラのの妖艶な魅力に惹かれて行くのだが…


ウディ・アレンの第40回監督作品となる本作、例によってシニカルで神経質で気弱な主人公がNYCアッパー・イースト・サイドで繰り広げる色恋沙汰のドタバタ、ではなく、イギリスロケのスリラー・ドラマ仕立てで、イギリス人キャストが主要キャラクターを占める、という異色の作品。上映時間も124分、と彼の作品の中で歴代一番の長さの作品だし、またここ19年間の21作品の中で、初めて米国市場で儲けが出た、という話も。
実際問題、内容を知らせずにいきなりこの作品を見せたら、ウディ・アレンの作品だと気づかない観客も居

るようにすら思えます。


主役のジョナサン・リース・マイヤーズは、欲におぼれ堕ちながらもどこかに冷静さを保つ複雑なキャラクターを好演。キャラクターにリアリティと深みを与える力強い演技力にすっかり見とれました。本作を見たすぐ後に、アクション大作「Mission: Impossible III 」でも顔を見かけましたが、ハンサムで芝居もできる彼の今後の活躍が楽しみです。


ヒロイン?役のスカーレット・ヨハンソンは、相変わらず空気のコントロールが絶妙。あけすけで、甘ったれで、衝動的なノーラの感情のひだを、力を入れすぎずに演じているのに感心。本作、ウディはビジュアルに徹底的にこだわったとかで、彼女の登場シーンでも、ドレス3パターン、ヘアスタイル4パターンをとっかえひっかえで、アレでもないコレでもない、と試行錯誤の撮影だったとか。ところで彼女の名前、アメリカ人が発音すると"ジョハンソン"と聞こえるので、ずっと日本訳の誤りだと思っていたのですが、エミリー・モーティマーのインタビューでは"ヨハンソン"のように聞こえます。どちらが正解なんだか…


エミリー・モーティマーは、「Lovely & Amazing 」(邦題が探せなかったのですが未公開でしょうか?)や「猟人日記 」など、なぜかキワどい役が最近多いかなぁ、という印象もあったのですが、よく考えてみたら「Dear フランキー 」や「ハウルの動く城」の吹き替え声優など、健全な映画にも結構でている事に気づきました。ま、良く考えなくてもそうなんですけど。


ふりかえって考えてみると、本作は「運が人生に関与する大きさ」を大げさに描いてみせる事が主テーマとなっていて、そう括ってしまうといつものウディ作品と同じに聞こえてしまいます。が、シリアスで緊張感が保たれるプレゼンテーションの出来の良さに、いつものウディ作品とは大きく違う観劇の満足度が生まれているのは確か。

スリリングで甘美な大人のエンターテイメントのテイストがありながら、最後の最後でウディらしい、うっちゃったアイロニーのまとめ方がアクセントとして効いていて、久々に大満足して映画館を出てこられた作品となりました。

恋愛、裏切り、殺人、と古典戯曲さながらの重いモチーフを使いながらも、理屈っぽくなく、こじつけ臭くもない、スムースに淀みなく物語が流れる今風の作品で、ウディ・アレンが嫌い・苦手、という層にもぜひ見てもらいたい佳作だと思いました。


邦題は「マッチポイント」で、日本公開は2006/夏の予定だそうです。

IMDb: Match Point
Official Site: DreamWorks

Match Point