ジェームズ(トム・ウィルキンソン)はトップクラスの弁護士として活躍し、平穏なアッパー・ミドルクラスの生活を楽しんできた。妻アン(エミリー・ワトソン)との間には子供を作らなかったが、平日はロンドンの都心近くのフラットで、週末は郊外の屋敷での生活を楽しんでいた。
そんなある日、屋敷のお手伝いの亭主が森でひき逃げされ死亡する。ジェームズは近郊に住むNY帰りの若者ビル(ルパート・エヴェレット)を疑い、妻アンに相談してみるが、彼女は彼の車には自分が乗っており、しかも事故は自分の運転中に起こったと告白するのだが…


ナイジェル・バルチンの小説「A Way Through the Woods」の原作を、「ゴスフォード・パーク 」の脚本のジュリアン・フェロウズが脚色・演出。原作は1951年に発表された際、「もしかして戻ってきてくれるかも? という期待から妻の浮気を許容する」というプロットが反響を呼んだそうですが、この原作をアンソニー・ホプキンスの元妻から薦められたフェロウズは、物語の骨格だけを借りて彼流にかなり自由に肉付けしたとのこと。


イギリス資本の映画ですが、メイン・キャラクターは米国の観客にも顔なじみのベテラン役者で固めた強力な布陣。情動に揺れ動かされる子無し主婦を演じるのが
ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ 」のエミリー・ワトソン、外国帰りで離婚直後の上流家庭のボンボンには
ベスト・フレンズ・ウェディング 」のルパート・エヴェレット、そして近年大型アクションからホラーまで出演
しまくっている濫作気味のトム・ウィルキンソンが「イン・ザ・ベッドルーム 」で見せたすばらしい演技力を久々に画面にぶつけてくれます。


この映画の面白い所は、犯罪ミステリーのような出だしで始まりながら、実は謎解きプロットはメイン・テーマではなく、大人の男女関係の機微を緻密に描く人間ドラマとして物語が展開されて行く構成にあると思います。プロット展開それ自身も十分に面白いのですが、物語の進行につれ描き出されていくキャラクターの内面が実に味わい深い。嘘が嘘を呼び、些細な決断の誤りが次の状況を悪化させていく「ファーゴ 」形式の転がる雪だるま的プロット展開の面白さに加え、社会環境学的な確かな観察眼による正確かつ濃厚な人間描写の豊かさが組み合わさって、ボリュームたっぷりの大人向けの映画に仕上がりっています。ジュリアン・フェロウズの初監督作品とのことですが、文句の付けようのない見事な演出でした。


誠実で真面目な男女二人がその誠実さゆえにすれ違い、穏やかで文化的な表層とは乖離した深層心理に含む人間性の暗さにスポットライトを当てた作品、ちょっとほろ苦く口当たりは決して甘くありませんが、秋の夜長にたまにはこの手の重めの作品に触れてみるのもいいんではないかな、と思ったりも。


上映時間 85 分というのが信じられないほど内容が詰まった衝撃的なほど見ごたえのある作品。久々の超お気に入り作品となりました。低予算文芸ドラマ作品が苦手でなかったらぜひ映画館で。


IMDb: Separate Lies
Official Site: Fox Searchlight


SepLie3