発明家のウォレスとそのアシスタント犬グルミットは、畑を荒らす野ウサギの駆除を事業化。折りしも町は年に一度の巨大野菜コンテストを目前に控え、ガジェットを駆使した凸凹コンビは野良ウサギの捕獲作業に大忙し。

そんな中、巨大野菜コンテストの主催者でもあり、豪邸に住むレディ・トッティントン(声:ヘレナ・ボナム=カーター)は、自分の庭に巣くうあまりの数の野ウサギに音をあげていた。
彼女と結婚し財産を狙うヴィクター侯爵( レイフ・ファインズ)は銃でウサギを追い払おうとするのだが、心優しいトッティントンは巨大吸引機で一網打尽にウサギを生け捕りにしたウォレスにすっかり惚れてしまう。
すべてが丸く収まるかに思えたのだが、すぐに夜な夜な野菜を食い荒らす巨大ウサギの怪物が町を荒らすようになる。コンテストの開催が危ぶまれるようになり、ウォレスは困り果てているトッティントンに怪物退治を約束するのだが…


とまぁ、そんなストーリーは実はどうでも良くなる程、待ちに待ったウォレスとグルミットの新作がついに公開。構想5年、撮影18ヶ月、制作費30億(60億とする記事もあり)という、今時ありえないほど丁寧に作られたクレイ・ストップ・モーション・アニメ。

演出はもちろんニック・パーク監督で製作は Aardman スタジオ。 Ardman は当初ディズニーへの参加を
打診されたそうですが、著作権のすべてをコントロールを主張して譲らない巨大アメリカ資本を諦め、結局作品製作の権利を保持したまま提携を結べるドリーム・ワークスと手を組んだんだそう。
実際、米国興行を考えてドリーム・ワークスは はピーター・サリスをウォレスの声優役から外そうと考えたそうですが、Aardman がそれを拒否。妥協案として、米国でも名前が売れている有名俳優二人(前述のヘレナ嬢とレイフ氏)を脇役で入れる事になったんだとか。


前作までは30分の短編映画だったので、今回の85分という尺をどのように料理するのか、半ば不安に思いつつ観劇に臨んだのですが、あのテーマ音楽に乗り今まで通りのウォレスとグルメットがそのママ大画面に帰ってきたのには大満足。クラシカルなクレイ・アニメに見えて、実は700カット以上のデジタル処理が含まれているそうですが(確かに「Were-Rabbit 」の変身シーンはちとスムーズ過ぎたかも)、従来のトーンを崩さずに一貫性を持ったシネマトグラフィに仕上げて来る辺りはサスガ。


日本公開にあたり、ちょっと悩ましく思えそうなのは、字幕と吹き替え、どちらで観るか? という選択。ピーター・サリスの声を聞けないのは勿体無い気もするけど、絵を楽しむのに字幕を追うのも辛いし。¥それと、結構英語に依存したギャグ、例えば「touppe」(かつら)と「to pay」(支払い)や、「hair」(髪の毛)と「hare」(大型の野ウサギ)を引っ掛けた台詞などもあって、これはなかなか訳者も大変そうです。


アニメーションのテクニカルな技術や美術造形など、感心した点はたくさんあって書ききれない程誉めちぎりたいのですが、中でも一番感服したのは、無邪気でイタズラっぽい子供っぽさと同居する大人の落ち着きのバランスの絶妙さ。安っぽさの中に輝く高尚さ、高貴な中の茶目っ気、とでも言うか、俗と聖の同居具合が見事。やっぱりこれはブリティッシュ以外の何者でもない、という結論に帰着するわけで、その辺りの微妙さがアメリカ製とも日本製とも異なるアニメーションの味として出ている所に降参したわけです。


95年の「ウォレスとグルミット、危機一髪! 」でオスカーを取っている作品ですが、この作品もオスカーをなみいる強豪を押しのけて受賞するのではないか、と思ったのでした。

邦題は「ウォレスとグルミット/野菜畑で大ピンチ!」となり来年3月中旬公開予定だそうです。

米国公開では「マダガスカル 」からのスピンオフで、あのペンギン達を主人公にした短編映画がおまけで併映。フルCGIで動きの楽しい作品で、こちらもお勧めです。


IMDb: Wallace & Gromit: The Curse of the Were-Rabbit
Official Site: DreamWorks


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あんまりキュートだったので、あちこちで拾ったおまけ画像を添付

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