舞台は19世紀なかごろのイギリス。北部の貧しい救貧院で奴隷のように扱われる孤児達のなかに、オリバー・ツイスト(バーニー・クラーク)が居た。意地悪な大人達とトラブルになり、ついに一人外へ飛び出し、向かった先はロンドン。ぼろぼろになってやっと到着したものの、あてもなく途方に暮れているオリバーに救いの手を差し伸べたのは、オリバーと同じ年端も行かぬ幼さにもかかわらず、すりの名人であるドジャーだった。彼は窃盗団のアジトへオリバーを連れて帰り、世話役のフェイギン(ベン・キングズレー)へ引き合わせるのだが…


文豪ディケンズの名作を「戦場のピアニスト 」のロナルド・ハーウッドが脚色し、同作品でもタッグを組んだ
ロマン・ポランスキー監督が演出した異色のファミリー文芸ドラマ。

レイチェル・ポートマンの音楽もパヴェル・エデルマンの手によるシネマトグラフィーも水準が高いですが、何といっても目を引くのはプラハに再現された19世紀のロンドンの広大なセット。カメラが引いても引いてもちゃんと町並みが出てくる辺り、なかなか迫力があります。(道路の角には人だかりが出来、往来を馬車が行き交い、路上には馬糞が落ちている、というリアリティさ!)


21世紀にリメークされた本作品の主テーマではないでしょうが、リアルに再現された原始資本主義の弊害(=悪徳資本家が貧乏人を搾取し、富のシステムから溢れた者が社会不安を引き起こす)を大画面で改めて見せられると、なるほど社会保障って概念は必然から生まれたわけね、となんだか判った気分になったりもします。


オリバーを演じたのは天使のように純真な顔立ちのバーニー・クラーク君。彼の美貌と小器用な演技もそれないではありますが、やっぱり目を引くのは未成年者を窃盗集団として働かせて富を蓄える小心者の悪徳ユダヤ人フェイギンを演じたベン・キングズレー。悪と善の両義性、みたいな複雑で入り組んだ役作りをいかがわしく完璧にこなすあたりは、さすがオスカー俳優。


ふりかえって考えるに、劇中主人公のオリバー君は運命に流されるママ、主体性を持っての行動は一切なし。この、主人公は単なる透明なメディウム(媒体)という構造、「戦場のピアニスト」の主人公を演じたエイドリアン・ブロディそのママだなぁ、と思った次第。

当初、あまりに無力なオリバー君に「志村~、後ろうしろ」みたいな歯がゆさを覚えつつ、ふと我に返るとすっかりストーリーにのめり込んでいた、というのは、よく出来た作品だったという事なんだと思います。ラストも、しゃんしゃん、のお約束で終わらせずに、ずっしり重たい手ごたえを残して〆る演出で、見ごたえがありました。


観劇前に予告編から想像したよりはずっと面白い映画だったのは確か。万人にお勧めできる良作だと思います。邦題はそのまま「オリバー・ツイスト」で2006年お正月第2段の公開だそうです。


IMDb: Oliver Twist
Official Site: Sony Pictures

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