舞台はインディアナ州の静かな田舎町。美しい妻エディ(マリア・ベロ)と二人の子供とに囲まれ穏やかに暮らすトム(ヴィゴ・モーテンセン)は、今日も自分が経営する小さなコーヒーショップでカウンターに立つ。
いつものように一日を終わろうとしていた閉店間際、二人連れの男が店に飛び込み銃を突きつけ金を要求。が、トムはとっさにコーヒー・ポットで相手を殴り、銃を奪って反撃。トムは足を負傷するものの、激しい銃撃戦は強盗二人が射殺されて幕が閉じた。

田舎の中年男の鮮やかな撃退劇は全国ニュースとなり、トムは一躍ヒーローとなる。が店に復帰した彼の元に、黒尽くめの見知らぬ男(エド・ハリス)が手荒そうな部下を従え訪れる。男はトムのことを何故かジョーイと呼び、フィラデルフィアでの借りがあると告げるのだが…


ジョン・ワグナーと ヴィンス・ロックの原作(グラフィックス・ノベル)の映画化作品。またアメコミ原作の映画化か、と思われる人も多いかと思われますが、この作品を演出するには、なんと"あの"デヴィッド・クローネンバーグ監督。先日観劇して記憶に新しい「シンシティ 」では、ロバート・ロドリゲスがフランク・ミラーの原作をいかにそのままトランスフォームさせずに3次元のカメラに落とし込むか、という尖った実験作だったのに対し、こちらは原作からプロットの骨格だけを借りてクローネンバーグが自由に逸脱しまくったある意味逆方向終着先とも呼べる形態の実験作品。


粗筋はえらくシンプルで、話だけ取り出せば半ば陳腐なアクション・スリラー+ファミリー・ドラマなんですが、この作品の面白みは表層にあるわけではなく、ストレートなプロットに監督のレンズを通してかかった複雑な歪具合こそが肝のように思われます。
96分の最初から最後まで一瞬たりとも無駄が感じられず常に張り詰めるような緊張感が続くという、いつものクローネンバーグ節は健在。湿度の高いねっとりとした重苦しい空気が満ちた画面の中で展開される高度に推敲された心理ドラマ、やっぱりすごい監督さんです。父親と息子が普通に朝食食べているだけでも、かなりヤバい感じが漂う、というのはなんとも。


マリア・ベロとヴィゴ・・モーテンセンが見せるよもやの過激で変態なエロティック・シーンも、いきなり登場するウィリアム・ハートのコミカルさも、監督独特のフィルターに乗ることでうまく機能していました。

人間や社会の内に潜む暴力性を考察した実験映画、とまとめちゃうとひどくつまらなく聞こえますが、クローネンバーグの緻密な計算と作り込みの完成度がすばらしく、見ごたえのある作品に仕上がっていたと思います。


評論家の受けもまずまずのようで今年の賞レースにかかわってきそうな勢いですが、えらく間口の狭い尖った作品なので観劇は自己責任で。(ヴィゴ・モーテンセンの銃撃アクションを期待した人はたぶん火傷すると思うぞ)


IMDb: A History of Violence
Official Site: New Line Cinema

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