グラディエーター 」に続くリドリー・スコット 監督の時代物、という事で話題になっていた本作、予告編もいい感じでかなり期待しての観劇となりましたが、その期待を裏切らない濃厚かつ繊細な出来に大満足して観劇を終え帰ってきました。
 
ご存知の通りお話は12世紀末、キリスト教徒の支配下にあるエルサレム王国を舞台にした時代劇。伝え聞く製作総予算は130億円強で、嫌になるほど凝りまくった美術や衣装のディテールには圧倒されっぱなし。ここの所「トロイ 」や「アレキサンダー 」といささかガッカリな時代物が続いてちょっぴり不安だったりもしたのですが、熟練リドリー監督の手馴れた演出に揺るぎは皆無で、さすが、の一言。
 
ただ主演のオーランド・ブルーム 君は、男前でコレと言った大きな欠点も見当たらない代わりに、良く言うと癖の無い素直な演技、悪く言うとあまり印象に残らず凡庸、という印象も。エピックを描くプロット・ドリブンな脚本であり (一応妻と子供を亡くした若者が信仰や愛を取り戻すというエピソードが背景にはありますが)、キャラクター・ドリブンではないという前提は理解できるのですが、個々のイベントや集団組織は極めて良く描けているのに、主人公を通じての人間描写は少し物足りない。マスクしっぱなしで顔を出さないエドワード・ノートン の演技の方がブルームより印象に残っているというも何だかアレな話なわけで… 仮に前述の2作品で主演を演じたようなカリスマ・スター(コリン・ファレルブラピ )が主演だったら、ラッセル・クロウが「グラディエーター 」に持ち込んだような息吹を吹き込めたのかもしれません----って強引な無いものねだりは良くないか----。キャスティングが全般に手堅く、脇を支えるリーアム・ニーソンジェレミー・アイアンズ の存在感は見事。ビビッドな衣装をまとうシビラを演じたエヴァ・グリーン 嬢も大変きれいでした。


ひるがえって考えるに、前述した主役不在感、というより主人公への感情移入を妨げている一番の要因は、リドリー・スコット監督がイスラム対キリスト教という対立にあくまで中立を保とうとする立脚点の弱さに起因するものなのかもしれません。この映画は911以降の世界情勢(や911以前から続くイスラエル問題)に対する寓話として製作されているのは自明ですが、作品のメッセージ性の切れという点では、単純明瞭な分「ブラックホーク・ダウン 」の方が分かりやすかった気がします。


フランスの田舎から聖地エルサレムへと旅立つ鍛冶屋の目を通し、世界観を徐々に説明していく脚本は丁寧な作りでしたが、いささかセッカチな編集は少し荒っぽい印象。息をつく暇なく一部の隙もない濃厚な絵がぶっ通しで2時間半続くのは拷問に近く、見終わった後はぐったり疲労感を覚えました。

ロード・オブ・ザ・リング 」3部作やマイケル・クライトン原作の「タイムライン 」なども記憶に新しく、中世の戦場を最新特殊視覚技術で再現するという試み自体には新鮮さを覚える人は少ないでしょうが、一流のスタッフの本気が結晶した出来上がりは見事で、映画館の大スクリーンで観劇する動機になりえる迫力でした。コスチュームや小道具の色使いもよく練ってあって、ひたすら美しい絵をたっぷり堪能できました。スケール感たっぷりのエピック作品なので、「キング・アーサー 」でがっかり人もぜひ映画館で!

IMDb: Kingdom of Heaven