13歳の少女アビバの妊娠・堕胎・家出等の経験を通し、人間関係のダイナミズムに鋭く切り込む実験映画。演出と脚本は「ウェルカム・ドールハウス 」のトッド・ソロンズ監督。


監督の過去作品を知っている人には今更説明するまでもないでしょうが、相変わらずオフビートに尖ったインディ・テイストで、万人受けをきっぱり拒絶する作風。「ハピネス」の突き抜けた乾いた笑いは影を潜め、ひたすら直球勝負なのは受け手にはややツライ。米国のリベラルとコンサバを区別するリトマス試験紙的な「中絶問題」に絡めて、極左の醜さと極右の嫌らしさを対比する下りも、両極端に行き過ぎていて笑いを誘われると言うよりは、しょうがなく苦笑いするしかない、という感じ。この作品でトッド監督が用意したエキストリームなプロットや舞台設定は、ある意味ジョン・ウォーターズ 監督の悪趣味を超えているかも。これがテリー・パーカーマット・ストーンの「サウスパーク 」のように軽いオフザケ風だったらまだ笑って納得もできるのでしょうが…


しかしながら、監督がこの作品に紡ぎだした問題定義は、自分に想像以上のインパクトを与えてくれたようで、観劇後しばらく雑多な思索が止まりませんでした。主人公の少女を複数の役者が演じるというギミックや、健常な感情移入を阻むかのような極端にエキセントリックな設定等に目を奪われがちですが、その裏に隠れた差別や社会構造への考察は、正確かつ緻密に物語に織り込まれています。


オフビート・インディで見るからに低予算ですが、主人公が接する癖のある「大人」は中堅どころの役者達がしっかりした演技をつけています。中でも主人公の母を演じたエレン・バーキン の揺れ方は実に見事 --変態役で常連役者のフィリップ・サイモア・ホフマン が出てくるかなぁ、と思ったら今回彼は出番無し。しかし「ママ・サンシャイン」を演じた女優デブラ・モンクのハジケ方が同じ程度ものすごかった--


個人的にはここしばらく観た映画の中で、一番心に引っかかった作品の一つです。どうヒネっても万人向けのデート・ムービーには成りえませんが、ショック療法的にたまにこんなのを見るのもいい、のかなぁ?  スペクテキュラーを期待できるわけでもなし、ビデオ待ちでも十分なのかも? 原題の「Palindromes」は”回文”の意味で、主人公の名前 AVIVA も引っ掛けてあるようです。


邦題「終わらない物語 アビバの場合」
IMDb: Palindromes