時は今から7年後。アメリカ全土に物質(サブスタンス)D と呼ばれるドラッグが蔓延していた。しかしその流通経路は複雑で謎に満ちており、どこで製造されどうやって社会に流れてくるのかを知る者は居なかった。



一方カリフォルニア州オレンジ郡の麻薬取締局は、完全匿名の囮捜査を遂行するために、スクランブル・スーツを導入。頭からすっぽり被る全身スーツ状のそれは、常に姿形を変化させ声を偽装する変装用のハイテク・ガジェットで、どんなテクノロジーを使っても中の人間が誰だかを推測する事は不可能。そのスクランブル・スーツを着用してオフィスに勤務する麻薬捜査官達の個人情報は、その上司ですら知らされていない。

SD5



そんな中、捜査官の一人(キアヌ・リーヴス)は、秘密裏に屋内に取り付けられた監視カメラと録画装置を使い、アークターという名の中毒患者を24時間監視する事を命じられる。そのアークターという男は、中毒患者達と一緒に暮らし捜査を進めている囮捜査官である自分自身だったのだが...

SD1



フィリップ・K・ディックの原作「暗闇のスキャナー」を、リチャード・リンクレイター監督が脚色し演出した近未来SFミステリー・スリラー。主人公を演じるのは、挙動不審ぶりがとても似合うキアヌ・リーヴス。虫の幻覚を見始めるヤク中患者でロリー・コクレイン。同居人かつ妙に明るい薬仲間でロバート・ダウニー・Jr(←この人、薬でえらいトラブってましたよね。よくこんな映画に出れるなぁ)とウディ・ハレルソン。微妙な位置関係に
居るヒロインにウィノナ・ライダー(←ぴったりの役どころ)。

SD4


SD6



リンクレイター監督の復活作「ウェイキング・ライフ 」(←「ニュートン・ボーイズ 」の興行が大失敗してしばらくスタジオからホサれたんだとか)と同じく、ロトスコーピングと呼ばれる技法で2Dアニメーション化されています。実写の上から輪郭をなぞり色を付けていくこの技法、今はPC上のソフトウェアを使って作成される
そうなのですが、1分のフィルムに対し作業時間は500時間。リンクレイターはまず普通に映画を撮り、編集を終わらせて完全に1本の映画として仕上げて、それからアニメ化するのに18ヶ月も費やした、というポストプロダクションの塊のような作品だそうな。ちなみに、アニメ化する際、キアヌの無精ひげを一貫して同じに描くのが、けっこう難しかったそうな。

SD8


同じジャンキー映画と言えども、例えばクローエンバーグの「裸のランチ 」などとは大きく異なった雰囲気を持つ作品で、監督曰く「ほんの少しの犯した過ちのために払わなければならなかったあまりにも大きな代償」がテーマなんだそう。


自分はロトスコーピングという独特のヴィジュアル・スタイルからくる不思議な浮遊感と距離感や、もっともらしくあちこちで提示される多義的なあいまいさを十分に楽しんだクチなのですが、そういうのが嫌いな人には少しツラい映画なのかもしれません。

途中はっきりした進行方向を見えずに迷走し続けるように見える物語が、ラストに向けて急速の収束する
のも「ウェイキング・ライフ」にちょっと似ていて、自分はひどく気に入ったのでした。

SD2


SD7


SD3



製作予算は20億、公開2週目で全米17→216スクリーンに興行規模は拡大され、現在累計2億のり上げでボックス・オフィス・ランキング10位に登場。日本では単館系公開になるんでしょうか?邦題は「スキャナー・ダークリー」でこの秋に公開予定だそうです。


IMDb: A Scanner Darkly
Official Site: Warner Independent Pictures

A Scanner Darkly