時は19世紀の終わり。所はオーストラリアの外れ。家族一家の惨殺とレイプの罪で追われていたバーンズ兄弟一味の二人が捕まった。スタンレイ警部(レイ・ウィンストン)は、兄のチャーリー(ガイ・ピアース)に対し、もし弟のマイキー(リチャード・ウィルソン)を助けたければ、山岳部へ逃げた長男のアーサー(ダニー・ヒューストン)をクリスマスまでに引き渡すように要求。馬と銃、そしてたった9日間の猶予をもらったチャーリーは、自分の兄の首を狩りに荒野へと旅立つのだが…

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脚本はニック・ケイヴ、演出は彼のミュージック・ビデオをデビュー以来手がけてきたジョン・ヒルコート。ミュージシャンでもあるニックは映画のサントラも担当しています。この二人が野心的にチャレンジしているのは、スピルバーグの「プライベート・ライアン 」的なリアリティを持つ、新しいオーストラリアン・ウェスタン・スタイルのアクション・クライム・ドラマ。


主演は、「タイムマシン 」や「モンテ・クリスト伯 」など大型商業作品をこなした後、お子様向け動物映画「トゥー・ブラザーズ 」に出て以来あまり顔を見た記憶がない英国オーストラリア人俳優のガイ・ピアース。

純真で天使のような幼い顔と、凶暴な残虐さの両面を持つ末っ子のマイキーを演じるのはリチャード・ウィルソン(←初めて見る顔でした)。慎重かつ大胆、沈着冷静で行動力もある犯罪グループのリーダの長男アーサーを演じるのは、ヴァージニア・マドセンの元旦那でアンジェリカ・ヒューストンの弟でもあるダニー・ヒューストン。レイ・ウィンストン演じる仕事に疲れきったスタンレイ警部の愛する妻の役にはエミリー・ワトソン。先日観た「Wah-Wah 」では異郷の地で本国式を貫く英国人社会から浮いたアメリカ人役を演じていましたが、この作品では"遅れた"田舎に文化と教養を持ち込もうとする英国の貴婦人という役どころ。

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英国の流刑地を舞台に、荒くれ者が移住者達の社会をしばしば脅かす時代を描く超リアルな異色のウェスタン。ファンタジー要素を取り除いた演出で、血や暴力や死が明暗はっきりと描かれた画面からは、その中に生きる人々の痛みが伝わってくるようでした。


登場するキャラクターのそれぞれがよく立っていて、やや尖った脚本に厚みのある丁寧な演出が添い、それを哀愁漂う音楽が被さった、近年なかなか見られない骨太の映画。砂埃の味が口の中に広がるような、乾いた大地の空気がカメラでよく切り取られていて、ザラザラした風の中で血を血で洗う残酷な殺し合いが繰り広げられる一方で、単に凶暴な暴力シーンをビジュアルで追うだけでなく人間の内面もしっかり掘り下げていて、いろんな意味でシンドさを感じつつも、なかなか見ごたえのある作品だったと思います。

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2005年の Australian Film Institute (AFI) で作品賞を含む12部門のノミネート、うち撮影、衣装、音楽、プロダクション・デザインの4部門で受賞したようです。原題の「Proposition」は提案くらいの意味でしょうか。邦題、日本での公開時期は探しきれませんでした。


IMDb: The Proposition
Official Site: First Look Pictures Releasing

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The Proposition