時は1950年代の終わり、所はキューバのハバナ。富豪一家の3人の息子は各方面で活躍していたが、そのうちの一人(アンディ・ガルシア)は有名なナイトクラブのオーナー兼コリオグラファーだった。幸せに満ちた家庭を心の支えにし、芸術を追求する彼だったが、やがてカストロ革命の波が国を被って行く…


予告編を数度見たくらいの予備知識しかなく、しかも作品名と記憶が結びつかないママにたまたま時間が合って劇場に入って観劇。キューバ革命前の静かで美しくゆったりしたハイ・ソサエティの暮らしから、暴力革命の火がくすぶり始めて社会に暗雲が立ち込め、やがて狂気のような動乱が始まり、移民としてニューヨークへ渡たり底辺の生活を始めて…という、言わばありきたりのキューバ移民物語でありながら、本作はそのディテール量と湿気や気温が感じられるようなリアリティの厚みが際立っています。


自らもキューバ移民であるアンディ・ガルシアの手により暖められてきた原案で、演出も主演を兼ねるガルシア本人が担当。構想から公開まで足掛け16年(でも撮影は35日間だったとか)、当初306ページあった脚本の草案は120ページまで減らされたそう。それでも大掛かりで超大な物語で、主人公の家族・関係者を含めて多くの登場人物を、時間をかけ場所を変えて描写していきます。


自分のアイデンティティをかなり正直にぶつけた結果なのか、感情が内に入り過ぎた演出とギクシャクしたあまりエレガントでない編集には注文を付けたくなる点は多いものの、個々のシーンにはなかなかの迫力があります。フィルムから漂う気高さと気品は、例えばしばらく前に見て記憶に新しい「ダンシングハバナ 」などのエンタメ作品と比べるのがおこがましく感じるほど。リアリティを追求したキャスティングでありながら、ポイント的に使われるコミカルなビル・マーレイや、とびきりの存在感のダスティン・ホフマンから来るアクセントも良く機能していたと思います。


なかなか感心したのは、物語の進行に応じて画面のトーンをうまくコントロールしていた事。前半のひたすら華麗で美しいダンス・コリオグラフィが、徐々に物悲しさを帯びてくるのも良かったし、明るいキューバー→革命→夜のニューヨークと、展開に応じて画面の華やかさ明るさ、温度が変化して行く演出は見事でした。


キューバ革命前後の動乱と騒乱にさらされる家族や友情を舞台演劇の振り付け師の目を通して描く作品、個人的には気に入る要素を多く発見できた映画でもあるのですが、なぜかその出来の割りには米国での広告・宣伝がイマひとつ力が入ってないような印象。伝えられる制作費は10億と小規模の映画で、配給が弱小のマグノリア、全米の上映スクリーン数は50枚ちょっと、公開8週目で2億円弱の興行では、お金がかけられないのは理解できますが、もうちょっとプッシュしてもいいんではないかと。


ちょっと大げさな作りに構えちゃう人も多いかもしれませんが、長尺に耐えられる自信がある人はぜひ映画館のスクリーンで味わって欲しい作品だと思います。


IMDb: The Lost City
Official Site: Magnolia Pictures

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